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離婚・男女問題

養育費が不払いとなったときの対応

1 はじめに

厚生労働省が令和4年12月26日公表した「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果の概要」(以下「調査結果の概要」といいます。)によれば、令和3年度の時点で母子世帯における養育費について、現在も養育費を受けているとの回答は28.1%、養育費を受けたことがないとの回答は56.9%との結果でした。つまり、日本ではおよそ4人のうち3人の母子世帯の家庭が、何らかの理由により相手方から養育費の支払いを受けていないというのが現状です。また、調査結果の概要によれば、そもそも離婚等の際に養育費について取り決めた件数は46.7%と半数以下程度であり、その主な理由は、相手に支払う意思がないと思った、支払う能力がないと思った、相手とかかわりたくない、という理由が大半でした。

養育費とは、子どもの衣食住に必要な経費や教育費、医療費など、子どもが経済的・社会的に自立するまでに要する子どものための費用をいいます。このような養育費について、特に平均年間収入が父子世帯に大きく下回る現状にある母子世帯の方々(※調査結果の概要によれば平均年間収入について母子世帯が272万円、父子世帯が518万円)や、なにより未来ある子どもたちにとって、上記の結果というのは、大変由々しき事態であると思いますし、私も弁護士として職務をするなかで、養育費の不払いという問題に直面するケースはとても多くあります。

そこで、このような現状を踏まえて、本コラムでは、養育費の取り決めに関する注意点や、相手方との間で取り決めた養育費が不払いとなった場合にはどのような対応があるのかについて、近時改正された民事執行法を踏まえて述べたいと思います。

なお、養育費についてどれくらい、いつまで支払ってもらえるのか、養育費の支払いについてどのように取り決めるか等については、別の機会で述べたいと思います。

2 養育費の取り決めの際の注意点

相手方から養育費の支払いを受けるためには、当然ながら相手方と養育費の取り決めをしなければなりません。この取り決め自体当事者にとって大変な負担ですが、取り決めたとしても単なる口頭でのやりとりや当事者間のみで作成した合意書だけでは、養育費が未払いとなった場合には十分ではありません。裁判所による強制執行手続や後述する相手方の財産状況の調査をするためには、前提として「債務名義」というものが必要です。この債務名義には、家庭裁判所の家事審判や家事調停調書、確定判決、和解調書等、裁判所が関与して作成されたもののほか、公証役場で作成された執行証書(いわゆる公正証書)もこれに含まれます。

なお、川崎市では令和4年4月以降に債務名義となる「公正証書」、「調停調書」等を作成されたひとり親の方を対象に、ひとり親家庭養育費確保に関する公正証書等作成費の補助金として上限5万円まで、公証人の手数料や離婚や養育費請求調停の申立てに必要な収入印紙に係る費用、養育費の取り決めのための弁護士等への相談費用や公正証書文案作成のための弁護士費用等の負担を市に求めることができますので(https://www.city.kawasaki.jp/450/page/0000139419.html)、当該制度をご活用いただき、まずは弁護士に相談のうえ、養育費に関する「債務名義」を取得するようにしてください。

3 養育費が未払いとなったときの初動

⑴ 債務者の財産状況の調査

債務名義を取得するまでもなかなか大変ですが、取得したからといって全て安心というわけではありません。養育費は将来何年間にもわたって支払われるものであるため、特に子どもが小さい場合はその間に支払者側の経済的事情も大きく変わることもありますし、なかには、支払能力があるにもかかわらず債務名義によって取り決められた養育費を故意に支払わない方もでてきます。

このような場合には、まず裁判所から相手方に対して支払を促してもらう「履行勧告」という制度の利用を検討します。この制度は、養育費等の義務を定める手続をした家庭裁判所に対して、口頭や電話でも申出ができ、その費用も一切かからないという点ではメリットがあります。しかし、履行勧告に従わなかったとしてもそれ以上の強制力はなく、公正証書によって債務名義を取得した場合はそもそも利用できません。

履行勧告を経ても支払わないという場合には、強制執行を視野に動く必要がありますが、ここで相手方の就業状況や財産状況等がわからないという問題に直面することがあります。相手方の財産を把握していない限り、強制執行を進めていくことはできません。

そこで、活用できるのが、令和元年に改正された民事執行法に基づく財産開示制度と第三者からの情報取得(以下「情報取得」といいます。)制度があります。この制度を利用することにより、以下の通り、裁判所の関与のもと相手方の財産状況を調査することができます。

⑵ 財産開示について

財産開示は、令和元年改正前にも制度としてありましたが、改正により、開示義務者の財産開示期日への正当な理由のない不出頭や財産開示期日における虚偽陳述等に対し、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰が設けられたことから、制度の実効性が飛躍的に向上しました。財産開示では、債務者の財産の種別に応じて、例えば給与等に関しては、勤務先名・勤務場所・勤務先における雇用形態、給与月額、賞与の支払時期・金額、退職金の有無・現時点での支給額を、預貯金・現預金に関しては、金融機関名および支店名、陳述時点の残高をそれぞれ陳述しなければなりません。

このような刑事罰による強制力を背景に、債務者を裁判所に出頭させてその財産の状況について開陳させることで、後の強制執行の手がかりとし、併せて、債務者に弁済を促す効果が期待できます。

⑶ 情報取得

一方で、裁判所が債務名義を有する債権者の申立てにより、債務者以外の第三者に対して、債務者の財産に関する情報の提供を命ずる決定をし、この決定を受けた第三者が、裁判所に当該情報の提供をするという情報取得制度が令和元年の民事執行法改正により創設されました。

これにより、まず預貯金債権に係る情報取得に関しては、当たりがつく銀行等の金融機関(※支店の特定は不要)を第三者として申立てを行い(※財産開示手続の前置も不要)、当該第三者からは、預貯金債権の有無、(有るとすれば)支店名、口座番号及びその残額等、預金債権等の差し押えに必要な情報が提供されます。

また、給与債権に係る情報取得に関しては、市町村や各種組合、年金機構等を第三者として申立てを行い(※預貯金債権に係る情報取得と異なり、財産開示を先に行う必要があります。)、第三者からは、債務者に対して給与又は報酬若しくは賞与の支払をする者の存否、(当該支払をする者が存在するときは)その者の氏名又は名称、所在地等の情報が提供されます。

他にも、要件は異なりますが、債務者が保有する不動産に係る情報や上場株式等の保有状況に関する情報も取得することができます。このように、情報取得制度におり、債務者の財産をある程度幅広く調査することが可能となりました。

なお、預貯金債権に係る情報取得に関しては、金融機関から裁判所に情報提供書が届くと、執行裁判所は、債務者に対し、情報提供命令に基づいて財産情報が提供された旨を通知することになります。すなわち、当該通知書は、金融機関から(2社以上の場合は、最後の金融機関)情報提供書が提出された後1か月が過ぎた時点で、事件ごとに1回送付されることになるので、裁判所から債務者に通知が行く前の1か月の間に、速やかに強制執行申立てを行うことが肝要です(債務者に通知が届いたらすぐに預金等が引き出されてしまう可能性が高いからです)。

⑷ 強制執行

財産開示若しくは情報取得により相手方の財産が判明した場合には、速やかに差押え等の強制執行手続きに移行します。長くなってしまったので、本コラムでは強制執行手続きについては割愛いたします。

4 最後に

調査結果の概要によれば、母子世帯の母が、離婚の際又は離婚後に子どもの養育費の関係で相談した割合は「50.2%」とおよそ半分程度しかおらず、このうち主な相談相手としては弁護士が「22.1%」とのことでした。この結果からすると、弁護士の敷居はまだまだ高いという現状があります。しかし、冒頭で述べたように、養育費不払いというのは大変由々しき事態ですし、未来ある子どもたちのために全力で取り組むべき社会問題だと考えています。

養育費の取り決めから実際の回収までは、大変な労力が必要です。養育費の件でお困りな方がいらっしゃれば、前述した補助金制度等を利用して、まずはお近くの弁護士に相談することをおすすめいたします。

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